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松山地方裁判所 昭和37年(ワ)140号 判決 1965年3月11日

原告 愛媛日産自動車株式会社

右代表者代表取締役 八木菊次郎

右訴訟代理人弁護士 泉田一

被告 大同生命保険相互会社

右代表者代表取締役 三木助九郎

被告 森池保親

右被告両名訴訟代理人弁護士 木原鉄之助

主文

被告森池は原告に対し金二三万七、三八八円及びこれに対する昭和三七年五月一〇日以降その支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

原告の被告会社に対する請求を棄却する。

訴訟費用中原告と被告森池間に生じたものは同被告の負担、原告と被告会社間に生じたものは原告の負担とする。

この判決中第一項は原告が被告森池に対し金二万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告等は連帯して原告に対し金二三万七、三八八円及びこれに対する昭和三七年五月一〇日以降その支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。訴訟費用は被告等の連帯負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として及び被告等の主張に対して次のように述べた。

「原告は自動車の販売修理を業とする会社であるが、原告が愛媛県越智郡宮窪町大三島観光タクシー(経営者中野政逸)に対し売却した一九六二年式ダットサンブルーバード新車(登録番号愛媛五あ三〇七一号)を原告社員森川千里に運転させて右売却先へ納車に赴く途中昭和三七年一月一七日午前〇時一〇分頃今治市孫兵衛作の国道で反対方向から進行してきた被告森池運転の一九五九年式ダットサン乗用車(登録番号愛媛五す三四〇七号)に衝突されたため原告の右自動車は破損して運行不能となり多大の損害を被った。

右の事故は原告の自動車が道路左側を徐行していたところを被告森池の自動車が正面から衝突したものであるから同被告が違法に右側通行をし、しかも制限速度を超過する時速六〇粁の速力で走るという専ら同被告の過失ある操縦に因って発生したものである。しかもこの事故は被告会社員である被告森池が被告会社へ入社を勧誘する用務のため被告会社松山支社長柏原重樹を同乗して香川県方面に赴いた後松山市への帰途で起きたもので被告会社の業務執行中の事故である。従って被告森池のみならず被告会社も原告に対し当然事故に因る損害を賠償すべき義務がある。

ところでその損害の額は(1)破損箇所の修理費一二万九、三八八円、(2)自動車運搬費八、〇〇〇円、(3)新車としての売却代金六七万五、〇〇〇円と修理車としての時価五七万五、〇〇〇円の差額一〇万円以上合計金二三万七、三八八円である。

そこで原告は被告森池竝びにその使用者の被告会社に対し連帯して右損害金二三万七、三八八円及びこれに対する右不法行為後の昭和三七年五月一〇日以降その支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求めるため本訴に及んだものである。

被告等主張の事実中被告森池の自動車は原告が所有権留保の約定付で同被告に売却し同被告が占有使用中のものであることは認めるがその余の事実は全部争う」

立証≪省略≫

被告等訴訟代理人は「原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求め、次のように述べた。

「原告主張の事実中原告が自動車の販売修理を業とする会社であること、原告主張の日時、場所で原告の自動車が被告森池の一九五九年式ダットサン乗用車と衝突したこと及び被告森池竝びに被告会社松山支社長柏原重樹が被告会社の社員であることは認めるがその余の事実は全部争う。

仮りに被告森池の運転に過失があったとしても被告会社には損害賠償の義務がない。すなわち(一)被告森池の自動車の運転は全く私用のためのものであった。同被告は昭和三六年一二月中に右自動車を原告から買い受け(但し割賦金支払いずみまで原告が所有権留保の約定付)使用中その車に転覆経歴があることを知り他に転売しようとしていたところ、偶々右柏原の友人で丸亀市居住の訴外明石某が乗用車を求めていたので、被告森池は右柏原を同乗して右明石方を訪れ右自動車売買の話を取りまとめての帰途右事故が発生したものである。なお被告会社は生命保険竝びにその再保険事業を目的とする会社で右事故当時右柏原は被告会社松山支社長、被告森池は同支社外勤社員であったが、支社長の権限は保険申込を本社に取りつぎ、保険料を受領し、外務員を指導教育することだけで職員採用等の人事権を持たず、又被告森池は当時保険募集竝びにこれに関する事務を担当していただけのものであるから原告主張のような入社勧誘等に行く筈がない。(二)仮りにそれが社用のためのものであったとしても、右事故は被告会社の事業の執行について生じたものとはいえない。すなわち自動車の運転による事故の場合は運転行為自体が被用者の職務に関するもので使用者の事業の執行あるいはその執行の延長と認められるべき場合にのみ使用者の責任が生ずるものであるが、そもそも自動車の運転が使用者である被告会社の事業の範囲に属しないものであるばかりでなく被告森池は会社においてその職務上自動車運転の仕事を平素担当していたものでもないから、同被告が自動車等によって保険の募集をすることがあってもそれは同被告の自由行動で被告会社の支配領域外のことがらというべきものであり、その際の被告森池の自動車の運転はその職務に関するものではなく被告会社の事業の執行のためのものとはいえず、それは被告会社の事業の執行とは全く関係がないものだからである。

原告の被告等に対する本訴請求はその理由がなく失当である」

立証≪省略≫

理由

原告が自動車の販売修理を業とする会社であること、原告主張の日時、場所で原告の自動車が被告森池の一九五九年式ダットサン乗用車と衝突したことは当事者間に争いがない。

先ず右衝突事故が被告森池の過失に因るものであるかどうかの点については≪証拠省略≫を綜合すれば、右事故は原告が訴外大三島観光タクシーに売却した一九六二年式ダットサンブルーバード新車を納車のため原告社員森川千里に運転させて松山市から愛媛県周桑郡三芳町方面へ向って進行中原告主張の国道上で反対方向から松山市へ向って進行してきた被告森池運転の前記乗用車と正面衝突したものであるが、その現場附近は有効幅員約五米の舗装道路で前方の見透しも良好なところであって、当時夜中で原告の自動車は前方に被告森池の前照灯を認めたので道路端一杯を徐行していたのにかかわらず被告森池の自動車が正面から非常な速力で原告自動車に衝突してきたものであることが認められ、この認定に反する証拠がない。従って右事故は被告森池が法規に違反し道路右側を通行し、しかもすれちがいの際衝突を避けるためとっさの措置もとれない位の速力で走っていた運転上の注意義務違反に因って発生したもので、少くとも被告森池の過失に因るものといわねばならない。

ところで被告会社は仮りに被告森池に過失があっても被告会社には責任がない旨を主張する。被告森池と訴外柏原重樹が被告会社の社員であることは当事者間に争いがなく≪証拠省略≫を綜合すれば、当時被告森池は被告会社松山支社直轄の支部長で新採用見込みの職員の下見につき松山支社長の柏原重樹に応援を依頼し支社長としてはさような応援依頼に応ずるのもその職務内容の一つであったので、両名で右自動車に同乗して香川県観音寺市まで右下見に赴きその帰途右事故が発生したものであることが認められ、この認定を動かすに足りる証拠がないので右自動車の運転は被告会社の社用を果すためのものといわねばならない。もっとも右自動車は被告森池が原告から買い受けたものであること当事者間に争いがなく、証人柏原重樹の証言によれば右柏原は右自動車を丸亀市居住の友人に買い取って貰うよう世話するつもりもあってそれに同乗して行ったものである(しかしこれは被告森池から依頼を受けたものではなく柏原の内心の目算であった)ことが認められるが、かような事情があってもそのため前記社用を果すためのものとの認定が妨げられるものではない。この点の被告会社の主張は採用できない。しかしながら次に被告会社は右事故が被告会社の事業の執行につき生じたものではない旨を主張する。いわゆる事業の執行につきとは事業の執行行為自体もしくはその執行に必要な行為だけの場合に限定せられたりあるいは被用者がその担当する職務を適正に執行する場合だけを指すものではなく、広く事業の種類、態様と被用者の具体的行為をその外形から客観的に観察したとき被用者の当該行為が事業活動の範囲内で被用者の職務行為の範囲に属するものと認められる場合をもその中に包含するものと解すべきであるが、しかし被告会社が保険事業を営む会社で自動車運転を営業とするものでないことは弁論の全趣旨に徴して当事者間に明らかに争いのない事実であるといえるし、被告森池運転の自動車は前記のように同被告個人が買い入れたもので被告会社のものではなく、なお被告森池がその職務上自動車の運転の仕事を担当している事実あるいは少くともその職務活動上の必要から平素常に自ら自動車の運転に従事し被告会社も承知の上その運転による職務活動を利用している等の事実は≪証拠判断省略≫これを認めるに足りる証拠が何もないこと等から考えると、偶々右事故の際の自動車の運転が前記のように社用を果すためのものであった事実から直ちに、もともとそれ自体としては被告森池の職務活動の範囲内に属するともいえない運転行為を、被告会社の事業の執行であると即断することは困難である。そこでこの点の被告会社の主張は理由があるものといわねばならない。従って右事故に因る損害賠償の義務は被告会社にはなく、原告の被告会社に対する本訴請求は失当である。

しかし被告森池は前記のところから右事故に因る原告の損害につき賠償の義務があるので以下その損害竝びにその額について判断する。≪証拠省略≫を綜合すれば、右事故のため原告の自動車は車体外部で右前フエンダー、前方バンバー、右前ドアーと右前車輪を破損したばかりでなく車体内部の機械類中一部を損傷し全く運行不能となったこと、従ってその修理のため自動車運搬費八、〇〇〇円と部品代、工賃等修理費一二万九、三八八円を要したが、それでもなお破損修理車のため新車として売却できないため最初の前記大三島観光タクシーとの約定代金額六七万五、〇〇〇円から一〇万円下値の時価五七万五、〇〇〇円でやむなくそれを他に売却したものであること、結局右事故のため原告の蒙った損害は以上合計金二三万七、三八八円であることが認められ、この認定に反する証拠はない。

以上の次第であるから原告が被告森池に対し右損害金二三万七、三八八円とこれに対する不法行為の右事故の後であることが明らかな昭和三七年五月一〇日以降その支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める本訴請求は正当であるからこれを認容するが、被告会社に対する本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷本益繁 裁判官 永松昭次郎 平田勝美)

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